連載コラム「季節を彩る花物語」

季節に合わせた花や緑の楽しみ方を紹介する、日比谷花壇の連載コラム「季節を彩る花物語」。
お家の中で花や緑を気軽に楽しむヒントを紹介したり、時には公園や路地裏に咲く花々を紹介してみたり、花や緑にまつわる歴史的な出来事から、海外での花の楽しみ方・贈り方まで、季節を感じ楽しめる花と緑の情報満載でお届けしていきます。
*このコラムは、中日新聞・東京新聞の隔週月曜夕刊で2009年1月から連載しています。

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 第3回  桜 〜冬の寒さがあってこそきれいな花に〜

室内で楽しむ桜

日本人に古くから親しまれている桜、「古事記」や「日本書紀」に登場し、「万葉集」にも多くの歌が謳われています。桜といえば、開花予想の基本木にもなっている染井吉野が有名ですが、日本では固有種、交配種あわせると600種以上の品種が自生しているといわれています。1月末の沖縄の寒緋桜から始まり、5月末の北海道のエゾザクラまでおよそ5ヶ月もかけて桜前線が日本列島を北上していきます。

我が家の近くに世界で1本だけといわれる「長勝院旗桜」という桜があります。ヤマザクラの変種で樹齢400年以上と言われ、もう花を咲かせる力もほとんど残っていないような老木なのですが、地元の人たちに大切に保護され、毎年染井吉野が散り始める頃に白い大型の花を付け始めます。通常桜の花びらは5枚なのですが、旗桜には花びら5枚におしべが変形した旗弁が1、2枚つき、それが旗に見えることから旗桜と呼ばれます。
染井吉野とは異なる可憐さ、優美さを持ちこの花を見るたびに植物の持つ生命力と自然の神秘の力に感動させられます。

最近ではお正月にも桜枝が出回るようになりました。啓翁桜という品種で12月下旬から3月にかけて出回ります。真冬に桜が咲くなんて、九州の暖かい産地から出荷されているものかと思っていたのですが、実は山形を中心とした東北の産地から出荷されたもの。気温が低くなり始める秋から桜の枝は休眠状態に入り開花のための準備をします。休眠させた枝を暖かいハウスに入れると春が来たと勘違いして真冬に花を咲かせるのだそうです。

桜が咲くためには春の暖かさだけではダメで、冬の寒さがあってこそきれいな花を咲かせてくれるのですね。室内で桜を楽しむには室内の温度に気をつけます。つぼみの状態で出荷されるので長く楽しみたい時は寒い部屋に、早く咲かせたいときは暖かい部屋に置きます。つぼみから満開の花が咲くまで様々な表情で楽しませてくるでしょう。今年はひと足早く、親しい友人を招いて桜を愛でるお花見パーティーはいかがでしょうか?


 コラムニスト紹介

日比谷花壇 本社 シニアデザイナー 西澤真実子
フラワーギフトの制作に長期間携わり、ギフトシーンにおける多くのフラワーデザインを 経験。現在は、ギフト商品の部門で商品デザインのコアを担い、トップデザイナーのひと りに数えられている。シンプルかつ花材の繊細な色合いにこだわったデザインを得意とし、 女性的で透明感のある作風が特長。独特のロマンティックな演出が、多くのファンを魅了 してやまない。また最近では、書籍の表紙デザインやCDジャケットのフラワーデザインを 手掛けるなど、多岐にわたる分野で活動を続けている。