連載コラム「季節を彩る花物語」

季節に合わせた花や緑の楽しみ方を紹介する、日比谷花壇の連載コラム「季節を彩る花物語」。
お家の中で花や緑を気軽に楽しむヒントを紹介したり、時には公園や路地裏に咲く花々を紹介してみたり、花や緑にまつわる歴史的な出来事から、海外での花の楽しみ方・贈り方まで、季節を感じ楽しめる花と緑の情報満載でお届けしていきます。
*このコラムは、中日新聞・東京新聞の隔週月曜夕刊で2009年1月から連載しています。

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 第6回  植物の持つちから 〜遠い昔から漢方薬としても使われる植物〜

サンシュユ

春は、植物のちからを感じさせてくれる季節。大地からは小さな芽が顔を出し、木々はつぼみを膨らませて、待っていましたとばかりに、次から次へと色とりどりの花を咲かせます。早春の頃には、梅、桃、コブシ、陽春には桜、山吹、ハナミズキ、晩春にはシャクナゲ、フジなどを、街のあちらこちらで目にすることができます。花木は日本人にとって古くから身近な存在でした。

観賞用として私たちの目を楽しませてくれるのはもちろんですが、多くの花木は、薬用植物として実用的に使われてきました。春の花木では、梅、ボケ、アンズ、サンシュユ、ヤマザクラ、コブシなどの庭木や街路樹になっているような馴染み深い花木も漢方薬として使われます。例えば、未成熟の梅の果実は、「整調」「解熱」「駆虫」に、ボケの果実は「鎮痛」「鎮咳」に、コブシのつぼみは「鎮静」「鎮痛」の漢方薬として使われます。また、インフルエンザの特効薬として知られるタミフルは、中華料理の食材としておなじみのトウシキミの実「八角」に含まれる成分を原料に作られています。

植物は自分では動けないので、受粉するために良い香りを放って虫を誘ったり、外的から身を守るために体内に毒性のある化学物質を生成して蓄えたりしています。毒性を持つ有毒植物は、私たちの身近にも意外と多く存在しています。福寿草、スズラン、スイセン、ジギタリス、アジサイ、クリスマスローズなどがそうですが、あまり毒を持つと知られていないものも多いのではないでしょうか。こうした有毒植物は、毒性物質を上手に使うことで、薬としての効果が得られるものが多いのです。猛毒植物として知られるトリカブトも、塊根(かいけい・地下茎が肥大したもの)は「附子(ぶし)」として漢方薬に使われます。

植物の持つちからは、遠い昔から人々に尊ばれ生活に溶け込み、様々な形で活かされ、現代まで受け継がれてきています。私は仕事がら毎日植物に囲まれ過ごしていますが、植物から日々新しい発見と感動を与えてもらっています。植物は、私たちに癒しを与えてくれるだけでなく、薬という形でも、私たちの生活に古くから根ざして、そのちからを与えてくれているのですね。


 コラムニスト紹介

日比谷花壇 本社 シニアデザイナー 西澤真実子
フラワーギフトの制作に長期間携わり、ギフトシーンにおける多くのフラワーデザインを 経験。現在は、ギフト商品の部門で商品デザインのコアを担い、トップデザイナーのひと りに数えられている。シンプルかつ花材の繊細な色合いにこだわったデザインを得意とし、 女性的で透明感のある作風が特長。独特のロマンティックな演出が、多くのファンを魅了 してやまない。また最近では、書籍の表紙デザインやCDジャケットのフラワーデザインを 手掛けるなど、多岐にわたる分野で活動を続けている。