連載コラム「季節を彩る花物語」

季節に合わせた花や緑の楽しみ方を紹介する、日比谷花壇の連載コラム「季節を彩る花物語」。
お家の中で花や緑を気軽に楽しむヒントを紹介したり、時には公園や路地裏に咲く花々を紹介してみたり、花や緑にまつわる歴史的な出来事から、海外での花の楽しみ方・贈り方まで、季節を感じ楽しめる花と緑の情報満載でお届けしていきます。
*このコラムは、中日新聞・東京新聞の隔週月曜夕刊で2009年1月から連載しています。

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 第24回  想いを花に込めて 〜色ごとに違う「愛」の花言葉を持つチューリップ〜   

チューリップ‘ピンクダイヤモンド’‘アンジェリケ’とグリーンを用いた花束

チューリップ‘ピンクダイヤモンド’‘アンジェリケ’とグリーンを用いた花束

春の花の代表と言えば、間違いなく「チューリップ」でしょう。愛らしい花姿とバリエーション豊かな色を持ち、古くから世界中の人々に愛されてきました。品種改良がすすみ、現在では8,000〜10,000品種もあると言われています。16世紀、トルコからヨーロッパに伝わったチューリップは、あっという間に人々の心を魅了し、球根が高値で取引されるバブル経済を引き起こしたほどでした。

それほどまでに人々の心をとらえたチューリップは、愛を伝える花としても古い歴史を持ちます。中世アラビアの“セラム”という風習に遡ります。愛の告白のために、花に意味を込めて花束を贈り、贈られた側もその返事に花束を贈ったそうです。そのセラムで一番人気のある花がチューリップだったそうです。もともと中世ヨーロッパには、疫病から身を守るために殺菌、抗菌作用のある“ノーズゲイ nosegay”“タッジーマッジーtuzzy muzzy”と呼ばれる小さなハーブの束を持ち歩く習慣がありました。ヴィクトリア朝時代になると、その習慣にセラムが合わさり、花言葉の意味を込めて想いを寄せる相手に花束を贈るようになったそうです。きっと、「愛」の花言葉を持つチューリップも、愛の使者となって恋人達の間を行き来したことでしょう。

 「愛」にまつわる花言葉を持つチューリップも、注意しなければならないのが、花色によって様々な意味を持つことです。赤は、「愛の告白」。紫は、「永遠の愛」。ピンクは「愛の芽生え」。と恋人に贈りたい花言葉ばかりですが、白は、「失われた愛」。黄色は、「実らない恋」。と別れを伝えたい時に贈るような花言葉になってしまいます。今の時代、愛の告白もメールで手軽に伝えられるようになってしまいましたが、昔の人々は密かな想いを花に込めて贈りあっていたとは、なんとロマンチックなんでしょうか。

 1月31日の愛妻の日に始まり、2月14日のバレンタインデー、3月14日のホワイトデーと春は愛を伝え合うイベントが続きます。照れくさくて普段は、なかなか伝えられない想いをチューリップに託して贈ってみてはいかがでしょう。


 コラムニスト紹介

日比谷花壇 本社 シニアデザイナー 西澤真実子
フラワーギフトの制作に長期間携わり、ギフトシーンにおける多くのフラワーデザインを 経験。現在は、ギフト商品の部門で商品デザインのコアを担い、トップデザイナーのひと りに数えられている。シンプルかつ花材の繊細な色合いにこだわったデザインを得意とし、 女性的で透明感のある作風が特長。独特のロマンティックな演出が、多くのファンを魅了 してやまない。また最近では、書籍の表紙デザインやCDジャケットのフラワーデザインを 手掛けるなど、多岐にわたる分野で活動を続けている。